昔の奥秩父の様子を知りたい人で、原全教氏の名前を聞いた事がない方は稀だろう。しかし、出版されている書籍はことごとく絶版となっており、実際に手に取って読んでみたいと街の書店を探してもおそらく見つけることは難しい。図書館や古書店に行けば見つかるかもしれないが。
実は、ぼくが古い奥秩父の様子を知りたいと思ったきっかけというのは、純粋に山に魅せられてという訳ではない。奥秩父の片隅のある地域に強く興味を引かれ、その地域の昭和初期の姿を知りたいというのが最初の動機であり、その時、初めて原全教氏の名前を知った。
というわけで、奥秩父全域に対してはあまり興味を持っていなかったのではあるが、氏の著書を読むにつれ、奥秩父の他の地域も歩いてみたいと思うようになった。
氏の著書はあまり所有していないが、当時秘境と呼ばれていた地域の山だけではなく、川、沢、その土地の人々を紹介した書籍は、奥秩父エリアへ分け入ろうとしていた当時の山男達のバイブルとなっていたであろう事は想像に難くない。
しかし、今ではそれらの書籍は山岳ガイドとしての役割を終えて、紀行文。いや、ただの紀行文ではなく、ぼくには歴史書のような趣が感じられる。行った事がある土地、歩いた事がある道、登ったことがある山のページは、現在の情景を思い浮かべつつ読むと更に興味深く感じる事ができる。
奥秩父回帰
さて、先日、深夜メンテナンス作業を終え、帰宅中にふらーっと平日昼間の神保町古書店街を冷やかしていると、「奥秩父回帰」に2000円の値が付いて並んでいるのを見つけた。
2冊組の「奥秩父/続・奥秩父」もまだすべて読んでいないのに、回帰を読んでもいいものだろうか?と思いつつも、気づけば購入していた。
「奥秩父回帰」は、1978年に出版された書籍で、氏の晩年の著作という事になる。序文にもあるように、晩節を迎えた氏の昔の思い出、印象的な山行、そしてエッセイのような短文をまとめた一冊になっている。この点で、「奥秩父研究」や「奥秩父/続・奥秩父」とは異なる種類の著書だといえる。
うれしいのは、この書籍は文体が現代風で読みやすいコト。ぼくが、「奥秩父/続・奥秩父」をなかなか読み進められないのは、少し古い文体で書かれているのも原因うちの一つなのだ。
氏の若い頃の思い出、初めて奥秩父へ入った山行記、冬の山行記。役所勤めをしながら、仕事上がりのまま山へ向かい、朝山から降りてそのまま出勤した話など、まるで加藤文太郎ではないか。
実はこの「奥秩父回帰」は、以前このblogでも紹介した、新井信太郎氏の「雲取山に生きる」の中で、原全教氏が雲取山荘を訪れた時のことが紹介されている。
これまたblogで紹介した事がある、山田哲哉氏の「奥秩父 山、谷、峠そして人」と似ている。奥秩父を好きになる人にはどこかしら共通点があるのだろうか。
書籍データ
書名: 奥秩父回帰
著者: 原全教
出版社: 河出書房新社
1978年 05月 25日発行
252ページ
目次
・山里今昔
・奥秩父の初旅
・冬の初旅
・第二回の冬旅
・第三回の冬旅
・奥秩父の主脈
・神流川街道を征く
・奥秩父事件遺聞
・奥秩父回帰