数学など当てはまらない分野もあるかとは思いますが、一般的に理系一般啓蒙書の古本を購入するのはあまりいいアイディアとは言えないと思います。
この本が分類されるであろう「(一般向けの)天文学や物理学」の場合では、新しい実験や観測の結果から今まで理論上の存在と考えられていた物体、現象の実在が確かめられたり、逆に否定されたりする事が頻繁に起こるからです。
一般的に、本は新しい事柄を知りたくて読むと思います。古い内容を最新科学と誤解して覚えると遠回りです。逆に、新しい事を知った上で過去の試行錯誤を眺めるという楽しみもありそうですが。
天文学者の混乱ぶりが新鮮
さて、この書籍は、1987年2月23日に実に400年ぶりに発生した肉眼で見ることのできる超新星爆発を巡る、天文学者、物理学者の人間模様がうまいことまとめられています。
冷静沈着そうなイメージの科学者が、たまたま運悪く第一発見者の名声を逃してしまったり、目の前で重要で珍しい現象が起こっているのに、スルーしてしまったり。
超新星ってなに?という方にも読めるように簡単な解説も書かれていてとても親切で読みやすいです。
約30年前と現在の違いが面白い
発売が1988年ですから、今から30年前となります。この本が書かれた時から30年の間に起こったことを知っていると、とても興味深いです。
いくつか例を挙げると
- ニュートリノ質量がはっきりとわかれば、宇宙が今後拡大していくのか、収縮に転するのか予測できる。
- これでは結局説明する事ができず、ダークマターやダークエネルギーという、一言で言うと「よくわかんない物」を探すという方向に進んでます。
- ニュートリノ観測を成功させたカミオカンデと共に小柴さんが紹介されています。
- この業績が認められて2002年、ノーベル物理学賞を受賞されることになります!
- インターネット普及以前の世界なので、世界の研究者同士の情報交換が原始的で衝撃的すぎる。
- 基本的に電話とテレックス(!?)で情報交換をしていたようで。日本にインターネットが入ってきたのは1980年代後半です。だから、仕方ないのだけれどカミオカンデのデータをテープを直接運んでいたとは初めて知りました。
- ニュートリノと同時に重力波も検知した(すぐ誤検知と訂正されたようですが)と書かれている。
- 重力波はこの時点から、29年後の2016年にやっとやっと検出された!
ぼくは、天文学はよく知らないけれど、干渉型電波望遠鏡を試そうとしたり、と今につながっている話題が豊富にでてくるのも興味深い。
テーマは、超新星発見騒動
巻頭に書いてある通り、本書のテーマは、超新星そのものではなく「突然近所で発見された超新星」に振り回される科学者の人間模様です。
冷静沈着なイメージの科学者の人間模様は、30年後の今読んでも面白いとともに著者のテンポのいい文章で、その時の興奮が伝わってくる。
書籍データ
書名: ドキュメント 超新星爆発 – 400年目の大事件 –
著者: 野本陽代
出版社: 岩波書店
1988年 4月 4日発行
目次
第一章: 超新星発見
第二章: 歴史に現れた超新星
第三章: 星の進化と超新星
第四章: ニュートリノ騒動記
第五章: 大マゼラン雲の超新星
第六章: 超新星 – これから –
ところで
つい先日、似たような事が起こったのはご存知でしょうか。上にも書きましたが、2016年についに重力波が検出されたのです。本書で紹介されている、超新星観測の時と同じようにギリギリのタイミングで、観測機器の調整が終わって測定器にかかったのですよね。
その時も同じように人間ドラマが繰り広げられたにちがいありません。その時の興奮を読みたいと思っていたら、出版されていました!まだ読む本がたくさんあるのに、買っちゃいそうです。。。