[書籍] 戦国金山伝説を掘る – 今村啓爾 –

1986年~1989年の4年に渡り行われた黒川金山遺跡調査の考古リーダである、
今村啓爾氏が一般向けに書いた黒川金山遺跡調査の報告である。

一般向けの調査報告?

詳細な調査報告書は400ページ近いものが公表されている(*1)が、そちらは考古学に精通していないと読むのが結構つらい。

一方で本書は、以下のような組み立てになっている。

  • 著者が黒川金山遺跡調査を始めたきっかけ
  • 発掘調査中の裏話や苦労話
  • 調査の結果判明したことの説明とその根拠
  • 後日談

本書で最も興味深い(とぼくが思う)のは、考古学者である著者の思考と手法を辿れる事。黒川千軒の規模、年代、衰退の時期をどのようにして推測し、なにを根拠として証拠をかためていくのかを辿ることができる。

学者さんだから堅い文章を書くのかと思いきや、本書は簡潔でそしてとても理解しやすい文章で書かれていて読みやすい。黒川金山のみならず戦国時代~江戸時代の金山遺跡に興味がある向きには必読の一冊だろう。

考古学者はどのように調査を進めるのか

考古学者は手つかずで詳細が分からない遺跡の調査をどのように進めていくのだろうか?僕ならどこから手を付けるだろう?と考えながらページをめくる。

埋蔵金関連の著書も多い畠山清行氏は埋蔵金を探したければ「地面を掘るより、資料を掘れ」という名言を残したらしい。

今村氏も「現地での発掘調査」と同時に「周辺地域での文献調査と周辺地域の人々から聞き取り」も行っている。発掘調査といっても全域を掘るには時間も人でも足りない。発掘するポイントを絞る必要がある。その指標にしたのは、地形、地質、そして地名である。

なんとなく埋蔵金調査と通ずるモノがあるな・・・と感じた。

発掘調査での出土品から、いろいろな事が分かるようだ。「ようだ」というのは、ある程度の推測が入ってしまうのは仕方ないからである。そのような時は、多方面から絞っていくという方法が採られる。

黒川金山遺跡調査の場合は、古銭、陶磁器、そして「石臼」である。

石臼?

黒川金山が操業していたと考えられる時代の山金採掘方法は

  1. 金鉱石を砕き
  2. すり潰し
  3. 金を分離
  4. 集めた金の粉を融解して集める

という方法がとられていた。この「すり潰す」という作業に石臼が使われた。

今村氏は、鉱山で使われた石臼の調査を全国規模で行った結果、石臼のタイプによりそれが使われた時代の指標にできる事を結論づけた。黒川金山周辺の金山で見つかった石臼のタイプを比較することで、最盛期のみならず衰退した時期までも推測できるという。

この石臼の話だけでも本書を読む価値があると思う。

ところで身延町にある、湯之奥金山博物館では各種石臼が常設展示されている。以前ぼくが訪れた時は知識が足りず、いろいろな種類があるのだな。その程度の感想だったが、本書を読み、石臼が金山遺跡の時代を決める指標として重要な役割を担っている事を知った。この事を踏まえた上で展示を見学すればまた新しい感動があるのではないか。また近々行ってみたいと思う。

(*1) 詳しい調査報告書はPDF形式でダウンロードできるので興味があれば是非ご一読を。

最後に

本書全体を通して今村氏の学者としての誇りと厳しいポリシーを持って仕事をしているのを感じた。

資金協力をしてくれた読売新聞の記者が勇み足で「金が付着した土器」が出土したと書いた時は、激しく抗議したそうだ(後日分析調査の結果、本当に金が付着している事が確認できたらしい)

また、先日このblogでも書籍を紹介した大藪宏氏に対し、「近代の坑道跡を近代の坑道と知りつつもそれを伏せ、探検記のごとく大げさに書いている」と名指しで批判している。一般向けの特に埋蔵金などの少しオカルトジャンルが混ざるような書籍の場合、真実を伏せ面白おかしく大げさに書かれるのはよくある事だ。今村氏は、金山遺跡を真剣に調査研究している故、許せなかったのだろう。

書籍データ

書名: 戦国金山伝説を掘る – 甲斐黒川金山衆の足跡 –
著者: 今村啓爾
出版社: 平凡社
1997年 2月 19日発行
295ページ

目次

第一章: 黒川金山との出会い
第二章: 現地調査
第三章: よみがえる鉱山町
第四章: 鉱山臼から技術の系統を探る
第五章: 古文書に語らせる
第六章: 広がる鉱山技術
第七章: 山師のユートピア
第八章: 戦国金山に芽生えた近世
第九章: エピローグ

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